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学術行政にかかわる内閣府の暴走を許すべきではない―日本学術会議法案の廃案を求める声明―

学術行政にかかわる内閣府の暴走を許すべきではない

―日本学術会議法案の廃案を求める声明―


大学横断ネット

(「稼げる大学」法の廃止を求める大学横断ネットワーク)

 

石破内閣は、今年3月7日、日本学術会議(以下、学術会議)の特殊法人化を骨子とする法案(以下、新法案)を閣議決定し、国会に提出する方針を示しました。わたしたち大学横断ネットは、以下のような理由でこの法案に反対し、廃案とすることを求めます。 

第一に、日本の学術政策にかかわる意思決定のあり方をこれまで以上に非民主化し、政権与党の暴走への歯止めをなくすこと。

第二次安倍政権は、内閣府に設置された総合科学技術・イノベーション会議(以下、CSTI)に対して段階的に学術政策にかかわる強大な権限を付与してきました。首相を議長として、主要閣僚6名と首相が任用する「有識者」7名を議員とするCSTIにおいて、ただひとり「関係機関の長」という資格で議員に名を連ねる学術会議会長は、学術界を代表して学術行政への意見を述べ、民主政治に不可欠なチェック・アンド・バランス機能を働かせる責務と権能を負った存在です。権力の分立のためには、学術会議が学術的観点から内閣府という執行権力の働きを監視し、必要に応じて勧告することこそ重要であるにもかかわらず、新法案では首相が任命する監事や内閣府に設置する評価委員会を通じて、内閣府が学術会議を監視し評価する仕組みを強化しています。現在は学術会議会員候補者の首相への推薦手続きのみを内閣府令で定めていますが、新法案では活動計画、実績報告、財務諸表作成など内閣府令で定めるべき事項を大幅に拡大しています。日本のような議員内閣制の国で内閣府の権限強化は、「政治主導」の名のもとに行政を政権与党の意向に従属させ、それぞれの省庁に蓄積された官僚の専門性をないがしろにし、議会の役割をおとしめ、執行権力独裁化への道を開くものと評せざるをえません。

第二に、大学を「イノベーション」の道具としようとするCSTIの政策と相まって、日本の学術全体を産業界の要求する近視眼的利益に従属させること。

学術会議にかかわる新法案が研究を通じた「イノベーション」の創出、すなわち「研究成果の活用」を重視していることは、たとえば評価委員の資格として「産業若しくは国民生活における学術に関する研究成果の活用の状況又は組織の経営に関し広い経験と高い識見を有するもの」(第514項)を挙げていることからも明らかです。これはCSTI主導で創設された国際卓越研究大学制度や、これにともなう国立大学法人法「改正」にも一貫した志向であり、大学「改革」の総仕上げとして学術会議をも「イノベーション」の道具に組み込もうとする志向を物語ります。学術的な発明・発見が「イノベーション」を生みだし日本の産業力を強化するのは望ましいことだとしても、「選択と集中」の原理に基づいてごく少数の「有識者」がごく少数の大学や研究者に巨額の研究費を配分する仕組みが研究力の底上げと研究成果の活性化につながるとは思えません。産業界の要求する近視眼的利益への従属が、縁故主義(ネポティズム)による研究資源の利権化、利益相反をはらんだ研究不正の蔓延に連なることは、この数年の試みですでに証明済みです。

第三に、産官学軍複合体の利益を優先する観点から知を囲い込み、アカデミーの本質である知の公開性を否定しようとしていること。

新法案では「会議の役員、役員以外の会員及び職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、同様とする」(第34条)と定めています。おそらく軍事機密を意識したと思われるこの条項は、「経済安全保障」にかかわる守秘義務原則が広範にわたって事細かに制度化された今日においては今まで以上に重要な意味をもち、学術会議、さらには日本の学術研究全体を囲い込もうとする姿勢をあらわしています。米国科学アカデミーのBylaws(会則)にも会員が機密事項を扱うことを想定していますが、最もそれが強調されている会員選考ですら秘密順守を求められるのは「審議中の間」("at the time of discussion")と限定しており、「職を退いた後も」義務を課すことは異常です。学術会議が特殊法人化されたならば、その役員、役員以外の会員の大多数は国家公務員ではありません。知を市民が求める公共財とみなして、知の自由な流通を求める研究者です。学術会議の代表するアカデミー全体に軍事的な顧慮からする守秘義務の網をかけることは、アカデミーを痩せ細らせ、ひいては国力をさらに衰退させるものとしかならないでしょう。

以上3点にわたって記したように、今回の新法案は日本の学術研究を総体として産業界の利益、さらに軍事的利益に従属させようとするものであり、そうした方向への「改革」にブレーキをかけることのできるはずの学術会議に箍をはめようとするものです。かりにこれまでの学術会議が市民の意向を適切に集約しながら誤った政策にブレーキをかける役割を十分に果たしえなかったとしても、それはブレーキによる制動の機能を強化する必要を示すものであって、ブレーキを外してよいという結論にはなりません。学術行政にかかわる内閣府の暴走を阻止するために学術会議にかかわる新法案に反対し、廃案を求めます。

  

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