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骨抜きにされる日本学術会議「軍事的安全保障研究に関する声明」 ―経済安全保障法案と国際卓越研究大学法案の合わせ技で研究動員体制がすでに完成しつつある!

5月5日(木)20~22時 Twitterデモ 詳しい告知はこちらをご覧下さい。

 417日のテレビ番組で河野太郎自民党広報部長が防衛相時代に科学研究費を防衛省文科省の共管にしたいと考えたが、文科省が同意しなかったというエピソードを語りながら、「防衛省の予算で研究しませんという大学は、科研費全部使えないよ」という体制とすべきだと語りました(詳しくはブログ記事をご参照ください)。

 すでに防衛相の職を解かれた者の放言のようにも聞こえます。

 実際、衆議院文部科学委員会において日本共産党の宮本岳志議員がこの件について質問したところ、文科官僚は河野発言が事実とは確認できないと答弁しました(動画はこちら)。

 ところが、経済安全保障法案をあらためて確認すると、河野太郎議員が話した方向にすでに事態は動き始めている!?ことがわかります。

 ただし、さすがに防衛省の予算をうけとらない大学は科研費を使えなくするという方式ではありません。

 科研費はさしあたり従来のままとしておく、その上で、科研費に匹敵する予算規模の「経済安全保障重要技術育成プログラム」(以下、技術育成プログラム)をいわば第二の科研費として創設し、軍事に転用できる研究を含めて国策的重要性をもつ研究を動員する体制をつくろうとしています。 

 まずは「自由と科学の会チャンネル」という団体によるYouTubeチャンネルをご覧下さい。この団体の詳細は不詳ですが、HPでは「防衛研究の自由を求めます!」ということを前面に打ち出しています。シリーズ第6回の動画は、【経済安全保障重要技術育成プログラム】防衛装備庁以外のデュアルユース研究基金というタイトルです。この動画を見ると、技術育成プログラムが防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」の趣旨を継承しつつ、さらにこれを拡張しようとするものと位置づけられていることがわかります。

 文科省や経産省などのHPでは「軍民両用」ということは明示的には語られていませんが、以下に見るとおり、明確に国策的方向付けを伴う研究支援プログラムといえます。

 技術育成プログラムについて第一に着目すべきは、「民生利用」以外の利用を想定していることです。内閣府の資料では、「経済と安全保障を横断する領域で国家間の競争が激化し、覇権争いの中核が科学技術・イノベーション」という認識を示した上で、「研究成果は民生利用のみならず、成果の活用が見込まれる関係府省において公的利用につなげていくことを指向」と書かれています。「民生利用」以外の「公的利用」のあり方が示唆されていることがわかります。419日の参議院内閣委員会での福島瑞穂議員による質疑で、小林担当大臣は「防衛装備品に活用されることはあり得る」と認めました(朝日新聞デジタル記事)。

 第二に着目すべきは、予算規模の大きさです。同じ内閣府の資料では、2021年度補正予算で2500億円、うち文部科学省所管が1250億円、経済産業省所管が1250億円となっています。文科省の資料では、「大学ファンド」を所管する科学技術振興機構(JST)を通じて大学、国立研究開発法人、民間企業等に研究を委託することになっています。経産省の資料では、新産業エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)を通じて民間企業等に研究を委託することになっています。

どちらの場合でも、これまで研究助成にかかわる行政の中核を担ってきた日本学術振興会は助成のスキームから外されています。しかも、日本学術振興会の2021年度予算では、科学研究費にかかわる予算総額は2377億円です。科研費の総額を越える金額が、日本学術振興会を介さずに、大学や民間企業等に交付されることになります。

また、防衛装備庁の2021年度予算では、「安全保障技術研究推進制度」の予算は総額101億円です。制度発足当初の2015年度予算は2.6億円ですので実に50倍近くに増加、さらに技術育成プログラムをこの「安全保障技術研究推進制度」の拡充と解釈すれば、実に6年間で2.6億円から一挙に101億円+2500億円と1000倍近くに増加したことになります。国立大学の運営費交付金、私立大学の助成金など基盤的経費には財布の固い財務省ですが、こと「安全保障」がかかわってくると急に財布の紐がゆるくなるようです。

 第三に着目すべきは、対象が「先端的な重要技術」とみなされる領域に限定されること、また、様々な次元で関係者に守秘義務が課されることです。

 経済安全保障法制に関する有識者会議「経済安全保障法制に関する提言骨子(官民技術協力)」(2022119日)では、技術育成プログラムについて「特に経済安全保障重要技術育成プログラム(令和3年度補正予算により措置された基金)を先端的な重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用を目的とするものとして法律上に位置付け」るべきだとした上で、「支援対象となる先端的な重要技術」について次のように記しています。

(a)宇宙・海洋・量子・AI・バイオ等の分野における先端的な重要技術の研究開発と成果の活用は、中長期的に我が国が国際社会において確固たる地位を確保し続ける上で不可欠な要素である。

  (b)一方、こうした先端的な重要技術は、万が一、技術そのものや当該技術の研究開発に用いられる中核的情報が外部に流出した場合、外部により不当に利用されたり、外部依存により当該技術を用いた物資やサービスを安定的に利用できなくなったりすることにより、国家及び国民の安全を損なう事態を生じさせる場合があることから、本制度の枠組みを用いて重点的に守り育てることが必要である。」

 このような趣旨に即して、現在、国会で審議中の経済安全保障法案においては「特定重要技術等の研究開発」にかかわる「官民協議会」を設置して情報管理を行うべきことを定めています。この協議会構成員には「国家公務員に求められるものと同等の守秘義務」が課されるほか、調査研究機関(シンクタンク)のメンバーについても守秘義務が課されることになります。

 さらに研究上の発明・発見が特許として保護された場合、現状では一定の年数を経た上での公表が義務づけられているのに対して、「国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれの程度」「発明を非公開とした場合に産業の発達に及ぼす影響」等を考慮して機微な発明については特許を非公開とする制度を構築しようとしています。 

このように、技術育成プログラムが研究成果の公開性・公共性に大きな制約を課すものです。この点において国際卓越研究大学法案をめぐる問題と重なり合うことになります。

私たちが廃案を求めている国際卓越研究大学法案には「国際的に卓越した研究の展開」に常に並列して「経済社会に変化をもたらす研究成果の活用」という趣旨のことが記されています。内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の「最終まとめ」(202221日)から、この場合の「研究成果の活用」の重要な柱として「産学連携を推進する観点からの知的財産権の取得」が位置づけられていること、さらにその具体的な中身として特許料収入の増大が推奨されていることがわかります。

かりに大学院生がiPS細胞のような、歴史に残る大発見をした場合、大学院生としてはその研究経過を早く公表して世界に広がる学界・学会全体の知的資産とするとともに、その研究を自己の研究業績として組み入れることを望むことでしょう。ところが、その大学院生の所属する大学がその研究により特許をとって「稼げる」ことを目指すならば、少なくとも特許を取るまで研究成果の公表を控えなくてはならないということになります。例えば、京都大学産学連携本部のHPでは次のようなFAQが掲載されています。「大学人は特許を取って権利を独占するよりも、権利化せずにどんどん発表して公知にした方が公共の利益になるのではないでしょうか?」という問いに対して、回答では確かにそうした考え方もあるとしながら、企業が発明を基にして実用化・製品化するプロセスをスムーズにするために特許を取得することが「公共の利益」にかなうとしています。

国際卓越研究大学法案は、このように既に各大学で進められている発明の囲い込み、研究成果の公開性、公共性への制約に法的お墨付きを与えようとするものです。経済安全保障法案は、さらにこれに加えて機微な技術に対しては特許の非公開を可能とすることで、この囲い込みを国レベルで強固なものにしようとするものです。

このような国策は、人類共通の知的財産を広げ深めるという学問研究の性格を歪め、学問の自由と大学の自治を否定するものです。ですが、国際卓越研究大学が実現されてしまったならば、これに抵抗することは困難となります。国際卓越研究大学において重要事項を決定する合議体(最高意思決定機関)の構成員が「稼げる大学」というコンセプトに共鳴する学外者を中心とする以上、技術育成プログラムで国が莫大な研究費を交付しようとすることについて、これを拒む理由はない、拒むべきではないとなるはずです。

 国レベルで推進しようとする研究の中には、軍事利用に明確に照準を据えたものが含まれる可能性も大いにあります。それも拒む理由はない、拒むべきではないということになるでしょう。かくして、日本学術会議「軍事的安全保障研究に関する声明」は完全に骨抜きにされることになります。

これまで防衛装備庁「安全保障技術研究推進制度」に応募して助成を受けた大学は全体として少数でした。日本学術会議の声明がタガとしての機能を果たしてきたとみることができます。政府・自民党は、経済安全保障法案を突破口として、このタガを外そうとしています。加えて、国際卓越研究大学法案による「大学の自治」の解体が、大学の側での抵抗の可能性を塞ぐこととなります。

 今後もしも日本学術振興会所管の科研費予算が大幅に削減され、技術育成プログラムの予算が増額されたならば、「防衛省の予算で研究しませんという大学は、科研費全部使えないよ」(河野太郎発言)という事態に近づくことになります。すなわち国策に直接役立つと思われる研究については国レベル、大学レベルで囲い込み、手厚く保護する一方、それ以外の研究は手弁当でやれという科学動員体制が完成しつつあります。

経済安全保障法案と国際卓越研究大学法案の廃案を合わせて求めていく必要があります。

コメント

  1. 軍事利用に関わる研究をする場合,学会,国際会議での発表,学生の卒論,修論,博論の発表や論文化(これらの学位に関する論文や,学会投稿なども)に大きな制限がかかる可能性があると思います.現状,企業や国プロでも,特許の関係で,ある程度の制約を受けていますが,それがさらに厳密になされるとすると,正常な教育が成立しないと思います.

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  2. 我々がすべき事は、軍事研究などに利用されない大学にしていく事だと思う。そのためには、大学をもっと公共性の高いものにしていく必要があるのではないだろうか。学力など関係なく、学びたい人は誰でも無償で学べる、そうなれば大学にもっと税を投入しても国民も納得するだろうし、何より時代が望んでいると思う。社会に開かれた大学にしていく事で、国民の教養が上がればこれ以上の国力増強はない。日本の進む道は、欧米や中国の真似をして、バブル的な研究に突き進むのではなく、世界の人類に貢献できるような、地道な研究をしていくべきだと思う。

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