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国際卓越大学法案成立への抗議声明

以下の声明はこちらからPDFでダウンロードしていただくこともできます。 

2022年5月25日

国際卓越大学法案成立への抗議声明

稼げる大学法案の廃案を求める大学横断ネットワーク


 今年5月18日、参議院本会議で国際卓越研究大学法案(国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に関する法律案)が可決され成立した。

 この法案は、大学ファンドの運用益を「国際卓越研究大学」として認定した大学に配分する仕組みを定めたものである。わずか数校の大学に数百億円とも見込まれる運用益を配分するという極端な「選択と集中」は大学間の格差をさらに拡大し、研究の裾野を狭めることで研究力の底上げをむしろ妨げると懸念される。そればかりではなく、国際卓越研究大学として認定された大学を政治に従属させる恐れが強い。

 こうした法案の問題点を指摘して廃案を求めた呼びかけに対して、Change.orgでのオンライン署名の賛同者は1ヶ月足らずで17,781筆に達した。ところが、法案の審議に費やされた時間は衆・参両院あわせてわずか9時間、参考人意見陳述の機会すらも設けられなかった。短時間の審議で拙速に法案を成立させた政府・与党に強く抗議する。


 委員会審議の過程を通じて、この法案が認定されなかった大学に予算措置上の不利益をもたらすばかりではなく、認定された大学における「学問の自由」「大学の自由」に引導を渡すものであることが明らかになった。

 第一に、国際卓越研究大学としての認定にあたり日本学術振興会を除外する一方で、科学技術・学術審議会や内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の意⾒を聴かねばならないとしている。日本学術振興会が多様な学術団体と連携しながら専門家集団による相互評価を尊重する仕組みをつくってきたのに対して、科学技術・学術審議会は個人として任命された委員によって構成される文科大臣の諮問機関に過ぎず、学術団体の意向を反映させることはできない。内閣総理大臣を議長とするCSTI のような政策立組織が認定に関与することは、学術にかかわる専門的な評価を度外視して、特定の大学を国策の手段にすることにしかならない。しかも、甘利明議員が自ら「チーム甘利」と称するごく少数の人物が大学ファンドを所管する科学技術振興機構の理事長、CSTIの常勤議員らの要職を占めていることが委員会審議で明らかになった。政治介入の余地があまりにも大きすぎると言わねばならない。

 第二に、法案には明記されていないものの、政府参考人の説明において学外者中心に組織されるガバナンス組織(合議体)に強大な権限を与える方針が示されている。政府参考人は、合議体はもっぱら経営にかかわる事項を所管して教学にかかわる「マイクロマネジメント」には立ち入らないと説明したが、個々の学部の人事に介入する可能性は否定しなかった。これもまた専門的な評価を度外視した、恣意的な人事の横行を許すものとなる。影響力ある政治家に近い財界人や退職官僚が合議体に入るのを妨げる仕組みもない。しかも、合議体の責任は曖昧である。政府参考人は、国際卓越研究大学に求められる「年3%の事業成長」ができなかった場合の責任の所在を問われて、責任は「法人の長」(国立大学の場合には学長、私立大学の場合には理事長)にあると答えた。合議体に学長の選考ばかりか解任の権限までも与えながら、合議体構成員個々人の経営責任は問わないことになる。合議体と学長の間で責任のなすりつけ合いが生じやすいこの仕組みにおいて、リスクある事業に手を出して損失を出した場合、教職員の労働条件引き下げや学生の学費値上げという形で教職員や学生にリスクのしわ寄せが転嫁される危険性が大きい。

 第三に、政府参考人は、大学が発明について特許取得を進めると同時に企業による製品化に貢献して寄付金等を呼び込む等の連携体制を大学評価のひとつの基準とすることを明確化した。大学における発明が結果として「イノベーション」につながるのは望ましいことだとしても、「研究で稼ぐ」ことを優先した場合、大学院生までもが自らの希望にかかわりなく特許取得を求められ、研究成果の公開に制限の加わる事態が広がることだろう。加えて、ほぼ同時に可決された経済安全保障法案において「特定重要技術」の研究開発にかかわる研究者に刑罰付きの守秘義務を課し、特許の非公開制度により研究成果の公開性、公共性に厳しい制約を課す仕組みが構築された。国策に役立つと思われる研究だけを囲い込む体制は、大学における研究・教育のあり方を歪め、中・長期的には日本の大学の研究力を大きく低下させると懸念される。


 国際卓越研究大学法案は、すでに全国各地の大学で進んでいる大学「私物化」をいっそう推進するものである。すなわち、大学の経営資源の配分は、学術的観点からの公正な評価に基づくのではなく、政治家・財界人・官僚などの私的な利害やコネクションに基づいて行われる。この場合の「私物化」は、「研究成果の活用」「企業による商品化への貢献」「経済的安全保障の増進」といういかにも公的な装いを掲げて推進されるものの、学術的観点からの公正な評価を軽視ないし否定し、恣意的な政治判断が介入する余地を拡大する点において私的利害に奉仕するものである。国際卓越研究大学として認定されるのはさしあたり「数校」だとしても、すべての大学が目指すべきモデルとされることだろう。

 日本国憲法に定める「学問の自由」、その制度的保障としての「大学の自治」をあらかさまに葬る実質的改憲ともいうべき事態が進行しつつある。オンライン署名へのある賛同者は、次のようなメッセージを寄せている。

  • 「大学改革」という名の下に、大学間の愚かな生存競争に巻き込まれ、自分の大学だけは生き残ろう、生き残れると思い込まされて、先人たちが積み上げて来た遺産のどれだけ多くのものを、売り捌き切り捨てて来たことか。もはや「学問の自由」や「大学の自治」という言葉さえ耳にしなくなっていることの重大さに気づかなければならない。

 「愚かな生存競争」の野蛮を脱して国内外での研究交流を深め、学術的観点からの公正な評価を尊重し、研究成果の公開性・公共性を担保してこそ、市民社会からの付託に応えながら研究力を高めることもできる。これ以上の先人の遺産の「売り捌き切り捨て」をくい止めなくてはならない。そのために、国際卓越研究大学への申請を検討している大学の関係者に対しては、法律の問題点について学内で学生も交えて徹底した議論を行うことを呼びかけたい。さらに、すべての大学関係者、そして市民に対して、学問を総合的に発展させるための共同を呼びかけたい。このような共同をすすめていくなかで、本法の廃止を含む学術・高等教育政策の転換の道筋を見出すことができるだろう。

コメント

  1. 政府・政治が、大学をコントロールしようとすることが、根本的に、学問の自由・大学の自治に反し、憲法に違反する、ということであり、これはすなわち、立憲主義の否定である。

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