声明文 大学私物化に立ちはだかる人垣をつくるために
この法案は、国立大学法人に運営方針会議という最高意思決定機関を設けさせることで、時の政権が大学トップの人事や運営方針に介入できるようにするものです。政財界の意を体した学外者が大学の予算・決算を決定し、学長の選考や解任に口を出すこともできる仕組みとなっています。
2020年に安倍晋三政権が検察トップの人事を左右できる法案を提出した際には「#検察庁法改正案に抗議します」というツイートをきっかけとして批判の声が高まり、法案の成立をふせぎました。この時にかろうじて検察の独立性を守ったからこそ、いま、わたしたちの目の前で東京地検特捜部による政界捜査が展開されているともいえます。
検察の独立性やメディアの独立性、中央銀行(日銀)の独立性と並んで、学術界の独立性は、民主主義を健全に保つために必要不可欠なものです。それぞれが独自の物差しにしたがって権力をチェックする機能が失われたならば、独裁国家となってしまうからです。
今回の法案は、日本学術会議へのバッシングと相まって学術界の独立性を脅かし、ひいては民主主義の解体をおし進めるものです。さらに、学生にとってキャンパス空間の持つ意味を無視して大学の土地を私企業に貸し与え、短期的な利益を見込める研究だけを「振興」することで学生の学びの選択肢を狭め、政財界による大学私物化を深刻化するものです。なにもかも経済的価値に還元する新自由主義の原理にしたがって「稼げる大学」とする試みは研究や教育を劣化させ、未来世代に大きなツケを回すことでしょう。
わたしたち大学横断ネットは、法案の成立を阻むことができなかったことに深い失意の念を抱いています。法律の改正を必要とする立法事実が明らかではないにもかかわらず、政府は法案の立案過程にかかわる公文書を断片的にしか提出せず、答弁も二転三転しました。それにもかかわらず、参議院文教科学委員会の委員長(自由民主党)は職権で委員会の開催を決定し、採決を強行しました。肝心な疑問には一切答えずに政府・与党が法案の成立を強行したプロセスそれ自体、民主主義が瀕死の状況にあることを象徴しています。
同時に、わたしたちは、この法案の危険性を訴える活動のなかで、希望を感じることもできました。野党議員*はわたしたちの訴えに真摯に耳を傾け、委員会での議論に生かしてくれました。各大学の教職員組合は個別労働案件への対応に追われているにもかかわらず、法案反対の声明を発するなど大学にかかわる公論の担い手でもあることを示しました。議員会館で開催した院内集会にはのべ200人を越える市民、学生がつめかけてくれました。学生たちは自ら法案にかかわる研究集会を開催し、路上での呼びかけを行うことで、わたしたち大学教員中心の運動の限界を突破してくれました。
大手テレビ局が委員会採決の日まで報道に消極的だったのは残念でした。ですが、フリーランスを含む記者の方々、インターネット報道番組の担い手、SNSでわたしたちの発信をフォローし、Change.orgでのオンライン署名に賛同してくれた人たちが、それぞれのやり方で問題を広めることに協力してくれました。
わたしたちの目標は、単に法案の成立を阻止することではありません。廃案を求める声を一緒にあげてくれた市民、学生、教職員、野党議員とともに、公共財(コモンズ)として大学を再生させる筋道を考え、民主的な方法で具体化していくことです。
政府・与党は、大学の私物化をより完全なものとするために、これからも次から次へと大学の管理統制を強化するための法案を出してくることでしょう。ですが、横暴な大学政策に抵抗する人の輪も、確実に広がってきています。相互にゆるやかにつながりながら、イザという時に自民党政権による大学私物化に立ちはだかる人垣を一緒につくりたいと思います。問題だらけの法案が可決されてしまった失意の中で起草したこの声明文が、人垣のさらなる広がりの起点となることを願っています。
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院内集会(11月14日)…吉良よし子(日本共産党)、白石洋一(立憲民主党)、舩後靖彦(れいわ新選組)、宮本岳志(日本共産党)、柚木道義(立憲民主党)、吉田はるみ(立憲民主党)、蓮舫(立憲民主党)。
院内集会(12月5日)…菊田真紀子(立憲民主党)、吉良よし子(日本共産党)、福島みずほ(社会民主党)、舩後靖彦(れいわ新選組)、宮本岳志(日本共産党)、柚木道義(立憲民主党)、吉田はるみ(立憲民主党)、蓮舫(立憲民主党)
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